ジユウメモメモ

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魅力的なキャラクターにハマったキャスト。マイケル・マン「パブリック・エネミーズ」

 「パブリック・エネミーズ」を観た。好きな監督のマイケル・マンの映画で、好きな俳優のクリスチャン・ベールが出演。主人公の銀行強盗よりも、追う連邦捜査官の人生に興味を惹かれた。

 ストーリーは実話が元になっていて、大恐慌時代のアメリカを舞台に国民からも人気を得ていた銀行強盗ジョン・デリンジャーと、彼を追うFBI捜査官メルヴィン・パーヴィス捜査官を中心に逮捕劇を描く。

 ジョニー・デップ演じるジョン・デリンジャーは仲間からの信頼も厚く、頭もいい。たとえ逮捕されても記者を相手に談笑し、まるでスターのように振る舞うキャラクター。対するクリスチャン・ベール演じるメルヴィン・パーヴィスは与えられた役目に対して足りない権限と、FBI長官フーヴァーからのプレッシャーにより、悩みを抱えて苦悩するキャラクター。主役の2人それぞれにピッタリの人物だ。

シンジケートに切り捨てられるデリンジャー。苦悩するパーヴィス。

 強盗シーンはプロはそう動くんだろうなと感じさせてくれるし、銃撃戦もある。魅力的な犯罪者、クライマックスの緊張感。物語の終わりはいつものやりきれなさが残る、乾いた空気感。デリンジャーが国民からスター視されていても、彼をヒーローとして描くことはない。確かに彼には美徳があるし、そばにいれば彼に憧れるだろう、仲間になれば強い絆が生まれるだろう。しかし犯罪者だ。救いの手を差し伸べず、キャラクターから距離を保って幕が降りる。

 それでも、唐突にメルヴィン・パーヴィスが事件の後に自殺した、というテロップが表示されて、一体何があったのかという謎を残してスタッフロールが流れたのには驚いた。そうなるともうジョン・デリンジャーよりもメルヴィン・パーヴィスの人生に興味が惹かれずにはいられない。メイキングやネットを見てみると、事件解決後、フーヴァーが自身よりもパーヴィスが注目を集めることを嫌い、半ば干す形で彼を要職から外したこと、パーヴィス自身デリンジャーを生きて逮捕できなかったことで相当思い悩んだらしいことが言われている。映画でもパーヴィスは真面目で、口数が少なく、黙して葛藤する人物に描かれていたけれど、もし彼を描いた別の映画があるなら是非見てみたい。

対照的なキャラクター、対照的な主演俳優の役作り

 ブルーレイの特典映像には、デリンジャーとパーヴィス、そして彼らのいた時代のアメリカについてのドキュメンタリーも含まれていて、より深く彼らについて知ることができる(”赤いドレスの女性に不吉な予感”というのはデリンジャーの恋人が元ネタなのだそう)。

メイキングの中で面白いのはジョニー・デップとクリスチャン・ベールの役作りの違い。デップはジョン・デリンジャーが実際に着ていた服を身につけてみたり、彼がいた場所を訪れたりして「ジョン・デリンジャーになりきる」ことで演じるのに対し、クリスチャン・ベールはメルヴィン・パーヴィスの親族に会ったり、人物像を丹念に調査して、「役柄の特徴を掴んで」演じる(ベール自身メイキング映像の中で「僕の役作りは何かの調査活動みたいだ」と発言している)。主演の2人とも演じるキャラクターに重なるところがあって面白い。

 銀行強盗と捜査官の物語を描くことの多いマイケル・マン。彼はメイキングの中でこう発言している。

「誰にでもそれぞれ印象に残っている映像がある
いろんな形で覚えていて時とともに思い入れが膨らんでくる
私にとって刺激的なのはそうした映像を表現しようと試みることなんだ」

「メイド・イン・LA」と「HEAT」はデリンジャーを再現しようとした出発点と通過点で、到達点が「パブリック・エネミーズ」なのかもしれない。