ガジェットでデコレーションされた、これからのシミュレーション映画「エリジウム」
疲弊した地球と人類の終末期
「エリジウム」のブルーレイを購入。監督は「第9地区」のニール・ブロムカンプ、主演はマット・デイモン。「第9地区」よりはマイルドになった気もするけれど、ドロイドやエクソ・スーツ(強化外骨格)とガジェットは増量。お金をかけて作られた未来のシミュレーション映像として楽しめるし、考えさせられるテーマもちゃんとある。
お金をかけて作られた未来のシミュレーション映像
映画の舞台は2150年代の地球。人口増加と貧富の格差が拡大し、超富裕層は、宇宙にコロニー”エリジウム”を建造し地球を脱出。エリジウムにはあらゆる病気を治療できる医療ポッドがあり、エリジウムの住人達は戦争の無い、病気も無い、老いも無い生活を送っている。一方地球に置き去りにされた貧困層の人々は医療ポッドは与えられず、ドロイド達に監視されて生活している。ハッカーの偽装する宇宙船に乗り込み、エリジウムに密航するものも大勢いるが、その岐路で命を落とすものも大勢いた。
地球でドロイドを製造する工場で働く工員 マックス(マット・デイモン)は、作業中の事故で致死量の放射線を浴びてしまい、余命5日と診断される。生き延びたいマックスはハッカーのスパイダーに宇宙船に乗せるよう迫るが、引き換えに富裕層の人間の誘拐を依頼される。条件を飲んだマックスはエクソ・スーツ(強化外骨格)を体に装着し、マックスが働いていた会社のCEO、そしてエリジウムの設計者であるカーライル(ウィリアム・フィクトナー)の誘拐を試みる。彼からプログラムをマックスの脳にダウンロードすることに成功するが、それはエリジウムのリブートプログラムだった。それを使ってクーデターを計画していたエリジウムの防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)は、地球にいた工作員クルーガー(シャールト・コプリー)にマックスの確保を命じる・・・。というお話。
劇中、宇宙に浮かぶ地球とエリジウムの姿が頻繁に映しだされるけれど、エリジウムは1つだけ。ということは何不自由なく生活を送れている人たちの人口は、エリジウムに収まる程しかいないということか。
SFで差別や移民の問題を描いていた「第9地区」。今作のテーマは”人口増加”と”貧富の格差”。地球はよくある荒廃した街というディストピアのイメージで、エリジウムはとにかく明るく、美しい。人が未来を思い浮かべたときの悲観的・楽観的イメージの両極端の世界が描かれている。そしてその悲観的、楽観的、どちらの描かれ方も今では荒唐無稽ではないのが面白い。
そこにあるドロイドやドローン、武器はこれから現実のものとなろうとしているものばかり。自分のDNAを調べてかかりやすい病気を知る術もあるし、3Dプリンターで臓器まで作るようになっているから、医療ポッドのアイデアもあと100年もあれば実現しているかもしれない。
社会問題に目を移すと、増加する人口に地球の資源の量が足りなくなるという説があるのと、独立する富裕層という話がある。
WSJ.com:世界の資源は枯渇せず – 有限説はエコロジストの杞憂
NHK:クローズアップ現代”独立”する富裕層~アメリカ 深まる社会の分断
どちらの問題も、どちらの説も、メリットもデメリットも理解できる難しい問題だ。
映画のラストは一見、観客の望む終わり方。しかしそれは決してハッピーエンドではない。マット・デイモンが語るに”常に悲観的な未来を妄想している人”ニール・ブロムカンプ(WIRED.jp:未来はコオペレーターたちの手に:マット・デイモンが最新作「エリジウム」を語る)。「第9地区」と比べるとそれほど尖った映画には見えず、「ひょっとしたらソニーに気を使って優等生的な着地点にしたのか?」とも思えるのだけども、彼が描いたラストは悲観的なものだ。
「それこそが、この映画の存在理由だ。地球の資源は限られている。現在の人口で資源を均等に分けると、先進国の生活水準は落ちてしまうが、それにより貧しい人々の暮らしは向上する。僕にも何が正解か分からないが、それが真実だ。そして、この映画はその真実を映し出しているんだ。」
ニール・ブロムカンプ
嫌味な人間たちが住むエリジウムも「ノアの方舟」として存在しているなら、映画の中で描かれるシステムを肯定せずにもいられない。
ガジェットでデコレーションされたこれからのシミュレーション映画。マックスのように一見小さな映画に見えるけれど、あらゆる場所に影響を与える一作であることは間違いない。「Call of Duty Advanced Warfare」のトレーラーのファーストカットはマックスの後ろ姿に重なるし、格差社会が語られるたびに引用されるだろう。
ブルーレイを買うなら通常版かプレミアム・エディションか?
「エリジウム」のブルーレイはディスク1枚の「通常版」と、特典ディスク付きの「プレミアム・エディション」があって、プレミアムエディションの特典ディスクの収録時間がたった30分。結構迷ってプレミアム・エディションを買ってみると、トリビアネタのほとんどは本編ディスクに入っていて、特典ディスクに収まっている30分の映像のほとんどは、格闘シーンのコレオグラフィーやWETAの特殊効果にスポットを当てたものだった。値段の差額ほどコンテンツの中身の差は小さな気もするけれど、映画の撮影現場の雰囲気をより知りたい場合は早めにプレミアム・ディスクを買っておいてもいいかもしれない(廉価版が出る頃には無くなっているはず)。
ちなみに本編ディスクの方に入っているネタでは、ブロムカンプ監督が「ハリウッドに飲まれたくない」という気持ちがあってスターの起用に渋っていたけれど、「マット・デイモンに会って考えが変わった」と言っていたり、当初はシャールト・コプリーを起用する気は無かったので、それを本人に伝えたら機嫌が悪なり友情を人質にされたので仕方なく配役した。という風に喋っているシーンが収録されていて、通常版でも十分面白い。
シャールト・コプリーが喋っているところをずっと見ていると癖になる(笑)。「特攻野郎Aチーム」の続編とか観たいんだけどなぁ。