岐路に立つ田舎町の選択は。「プロミスト・ランド」
アメリカの小さな街が突きつけるグローバルな問題
有楽町の日比谷シャンテで映画「プロミスト・ランド」を観てきた。マット・デイモン主演、ガス・ヴァン・サント監督の「グッド・ウィル・ハンティング」コンビの最新作。マット・デイモンは制作と脚本にも名前があった。
正直でいるだけでは生きていけない難しさ
アメリカが新しいクリーンエネルギーとして力を入れるシェールガス。その供給会社の一社であるグローバル社の広報マン、スティーブ。スティーブは同僚のスーとともに、天然ガスの眠る田舎町に住民から掘削権を獲得するためにやってくるが、説明会で高校教師がシェールガス掘削に付きまとう環境破壊の説明をし始め住民は動揺。結果、ガス企業を受け入れるか3週間後に住民投票が行われることになる。始めは掘削と引き換えに多額のオファーを提示され地権者達も乗り気だったのに、環境保護団体の男も乗り込んできて形成が逆転していく・・・というお話。
シェールガスについては水圧破砕法がアメリカで頻発する地震の原因じゃないかと騒がれている、というニュースを目にしたくらいだけど、それをやるときに大量の化学薬品を投入すること、その薬品が地表へと上がってきて土壌、水質、それを口にする動物たちを死に追いやるという話は映画で初めて知った。スティーブ達を快く思わない地権者の一人のセリフに「あの子の父親はイラクで死んだ。石油依存を止められるのはいいがあの子になんて説明すればいい?」というのがあって、クリーンエネルギーに反対する人の理由も複雑なものがある。
それでも「アメリカで起きてる話でしょ」で済んじゃいそうだけど、シェールガス企業を巨大ショッピングモールを運営する大企業に置き換えると途端に身近な問題になってくる。スティーブの口説き文句は「農業の街は死に瀕している、このままでは子供たちを大学に行かせられないだろ?天然ガスのお金でその問題をふっ飛ばそう!」だ。シャッターがたくさん並ぶ寂れた商店街、観光資源に乏しい田舎町。巨大資本にものをいわせて進出する巨大スーパー、補助金と引き換えに建設されるあれやこれや。
みんな”のどかな風景”が残されるべき大切なものなのはわかっているけれど、それがそこに住む人々の生活をよくする原資になるかというと、必ずしもそうはいかない。そしてそこに住む人々も今より豊かで便利な生活を望む権利は当然あるし、変化すべきかすべきでないのかはほんとに難しい(地方から東京に出てきた人間としても、帰る度に生まれ育った街がどんどん新しくなっていくのは嬉しい気もするし寂しさも感じる)。
「君はいいやつだ。ただ仕事が残念だ。」「ただの仕事よ。」映画は地方と都市部の格差問題と同時に”お金のために正直さを捨てられるか”、という疑問もぶつけてくる。
この映画はそんな難しい問題の答えを提示できずに終わる。アメリカの小さな街で起こるシェールガスにまつわるお話。それでも届くメッセージはグローバル。
「インサイダー」や「フィクサー」「シリアナ」ほど激しくはないけれど、それらを見返したくなる。エンディングはどことなく「SOMEWHERE」みたいな清々しさ。モヤモヤは晴れないけれど。