「グランツーリスモ」とは一体何か?ドキュメンタリー映画「KAZ」
HuluとYouTubeで見られる「グランツーリスモ」のドキュメンタリー映画
※Hulu、Netflix、Amazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスでは、コンテンツ配信スケジュール、コンテンツホルダーとの契約により、視聴可能なタイトルが変化するため、記事内で紹介しているタイトルの取り扱いが休止、配信終了となっている可能性があります。
自分にはヒーローだと思ってる人が何人かいて、Apple創業者のスティーブ・ジョブズ、Appleのデザイナーのジョナサン・アイヴ、ゲームの世界だと「メタルギアソリッド」の小島秀夫監督、映画監督ならリドリー・スコット、原田眞人、他にもまだまだいる。
彼らをヒーローだと思っているのは、自分の興味のあるジャンルの人たちだから、ではなくて、インタビューやメイキングで姿を見て、仕事の打ち込み方や信念みたいなものを見て、読んで尊敬しているからだ。だから必ずしも彼らの手がけたもの全てを見てきたわけではない。
プレイステーションのレースゲーム(ドライビングシミュレーターと呼ぶほうが正しいか)「グランツーリスモ」の生みの親の山内一典氏もその一人。
自分のゲーム歴はややセガ寄りだったので、プレイステーション全盛期はセガサターン派だったし、PS2が国民機になっていたころは社会人になってゲームから遠ざかってた。それでもグランツーリスモの綺麗な映像はCGに興味があったから無視するはずもなくトレーラーを見ながら「スゲー」なんて思ってた。そうなると技術のバックグラウンドのことも知りたくなるし、自然とインタビュー記事を読むようになって氏の名前を覚えるようになる。
なぜ「グランツーリスモ」はレースゲームではなく「THE REAL DRIVING SIMULATOR」なのか、なぜ「グランツーリスモ」は世界中のレースゲームファンから特別な存在として見られるのか。
”フロー”を手にした人は哲学者のよう
「KAZ :Pushing the Virtual Divide」は山内一典氏本人を始め、ソニー、ポリフォニー・デジタルのスタッフ、自動車メーカーのデザイナー、自動車評論家、レーシングドライバー、学者など多くの人々のインタビューで構成されたドキュメンタリー映画。Huluで先行配信され、8月21日からYouTubeで配信される予定。
グランツーリスモ・ドットコム:「KAZ :Pushing the Virtual Divide」
映画は「フロー」という言葉と共に始まる。「脳と心が最も効果的に働く状態で、まるで魔法にかかったような経験をするのだ」と。そして、その状態を手にした人はいともたやすく世界を変えていくように見えるが裏では途方も無い努力を重ねているのだと。
もともと山内氏はソニーの音楽部門にいた人。ソニーがゲームに進出するぞ、となったときにゲーム制作を命じられ開発したのが「モータートゥーン・グランプリ」。ポップなイメージの見た目に反して、クルマの挙動がリアルなことから、リアルな自動車ゲームにさほど強い興味を示さなかった上層部も彼が何をしようとしているのかを理解した。会社を作らせ独立させて出てきたのが「グランツーリスモ」。
デジタルで世界を変えようとする人達がいる
世界の熱狂とは対照的に山内氏本人の語り口や姿は「ゲームクリエイター」という言葉からイメージする人物像とは一致しない。先生、哲学者、古武術家とかいったイメージだ。”フロー状態”にいる人の身のこなしはしなやかで、どこまでも前に進んで行けそうだ。じっくりと世界のプロセスを観察して、結果から逆算するのでなくプロセスが産む結果をバーチャルの世界で再現する。
優秀なドライバーでもある完璧主義者がゲームを作ると世界が変わっていく。ゲームでスキルを磨いた若いゲーマー達が短期間で現実の世界で優秀なレーシングドライバーになりベテランドライバーを脅かす。ゲームがデザイナーを刺激してコンセプトカーを発表と同時にゲームの中で運転できるようにまでなった。
多くの人たちが意地悪く文句を言っているのを見ると
自分たちは正しいことをしているのだと確信します確立されたものを困惑させているということですから
ダレン・コックス
日産自動車グローバル・モータースポーツ・ディレクター
一人の哲学者、ドライバー、ゲームクリエイターと、彼のスタジオがやっていることは、「大事なことは大事だから、大事なことをするためにやらなきゃいけないことを、愚直にやる」。誰もがそうするのはいいことだとわかっていても、実際にそれをやり遂げることも続けることも難しい。だけど本当に世界をひっくり返すのはそれをやる人たちだ。
私たちが求めているのは
この瞬間に完全に没頭することだと思いますそれを何度も繰り返し
この瞬間を素晴らしいトーンで本当に高いクオリティに生きられるなら
自分たちの可能性に近づけるのだと思います
マイケル・ジャーヴェイス
ハイパフォーマンス心理学ディレクター
「グランツーリスモ」はまだゲームなのか、それともすでにゲーム以上の何かなのか、ゲームが進化して何か以上のものになったのか。「グランツーリスモ7」「8」「9」とこれからも進化していくのだろうけど、その時世界がどうなっているのか楽しみだ。
グランツーリスモは運動だ
山内一典
こんなに興味深いドキュメンタリーを見たのは久しぶりだ。ネットで見られるのもいいけれど、オフラインでもいつでも好きなときに見たい。この映画はぜひブルーレイで手元に置いておきたい。
ソニーさん、検討していただけないでしょうか。