静かで、激しい諜報戦「誰よりも狙われた男」
9.11後、ドイツを舞台にした「外事警察」
今年気になっていた映画の1本「誰よりも狙われた男」をTOHOシネマズ シャンテで観てきた。同じくジョン・ル・カレ原作の「裏切りのサーカス」も渋かったけど、それより渋いスパイ映画。諜報機関と民間人の協力者という組み合わせ、NHKで放送されていた、「外事警察」に雰囲気が似てる。あのドラマが好きなら気に入るはず。すんごい地味だけど。
ストーリー
9.11以降、世界の諜報機関はテロの防止に躍起になっている。ドイツのギュンター(ホフマン)率いる”表向きには存在しない対テロ組織”はイスラム過激派として国際指名手配されている男、イッサがハンブルクに密入国したという情報を入手する。ギュンターはイッサを泳がせ、かねてから狙っていた、テロ組織への資金援助をしていると見られる大物に接触させ、その人物を情報源として取り込むべく作戦を開始する。
というストーリー。途中でCIAも顔を出すから、あれ?ってなるけど、全編みんな英語を話してるだけで、ドイツの諜報機関のお話(セリフは英語だけど、街の落書きはみんな多分ドイツ語)。
誰も知らないところで起きている諜報戦争
この映画はフィリップ・シーモア・ホフマンを2時間じっくり見る作品。白髪でやつれた格好の主人公。自分の仕事に確信を持ち、タバコと酒の数を見れば、”世界を平和にする”ために私生活を犠牲にしてきたのが十分伝わる。
その巨体を
窮屈そうに車から引きずり下ろしたり、常にゼーハーゼーハー息をしていたりと、カッコよく映ろうだなんてことは微塵もしていなくて、そんな演技を見ていると作り話と現実の境界が曖昧になってくるから映画にスッと集中できる。
一発の銃声も、爆発も、カーチェイスもない。「スパイ映画」と聞いて期待してしまうようなアクションは一つもない(「クルマのエンジン入れたら爆発するんじゃないの!?」とか「いきなり撃たれるんじゃないの!?」なんて妙に身構えて緊張して見てた・笑)。
主人公たちは緻密に計画を立て、タイムリミットが迫る中、状況が変化すればすぐに対応して戦略を変えていく、餌を変え、より大きな獲物を丁寧に、丁寧に、じっくりと釣り上げていく。びっくりするくらいに地味な映画だけど、ラスト、主人公が怒りを露わにするシーン、これがあるから損をした気にはならない。後から思い返せば誰も銃を持っていなかったのに、持った人間が全てを潰す。我慢ができない愚か者の集まりか、世界が平和になっては困る者たちか。それともそれも世界を平和にする一つの方法なのか。あまりに苦い結末。
あんな震え方、初めて見た。そして、もう見られないのが残念だ。
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